Yukiyanagiな日々

趣味で創作活動しています。野生動物、北方狩猟民大好き。創作活動の報告や、日々思うことを綴ります。

「黒天白悪」序章

        「黒天白悪」ブログタイトル文字


 血を吸う鬼と書いて、吸血鬼――――吸血鬼。夜な夜な墓場から出てきて、寝ている人の喉に噛み付き血を吸うと言われるこの化け物は、映画や小説、ゲーム、ドラマを通じてよく登場し、西洋の化け物の中で最もなじみ深い存在である。
 この事情は「この世界」でも同じで、つい最近までその存在は「この世界」においても完全に架空の存在だと思われていた。私たちの世界に比べてはるかに多種多様な人種が存在していてもなお、である。
 「この世界」は多様すぎる人類が存在しているがために、それによる人種差別も尋常ではなかった。
 「この世界」には大きく分けて2種類の人種がいる。一方はトランス型といい、もう一方はツール型という。前者はかつて「獣人」と言われ、後者はかつて「真人間」と言われたように、トランス型は鳥や獣に似た姿をもつ人々であるのに対し、ツール方は一見普通の人間の姿ではあるが、トランス型より強大な魔力を持つ人々である。だが、彼らは人類学的、遺伝学的には同じ人類「ホモ・サピエンス」であり、両者を分けているのは人類共通に備わる魔力の使い方だけである。姿の変形(transform)に使ったのがトランス型、あくまで道具(tool)として使ったのがツール型である。
 両者は環境への適応の違いから、かつて別々の文化圏であったのだが、ツール型がヨーロッパを中心に勢力を広げ、トランス型は住む場所を追われたり奴隷にされたために、ツール型の社会に加わることを余儀なくされた。そして、18世紀あたりにトランス型が持っていた部族形態が完全に崩壊され、トランス型とツール型は同じ環境で暮らすこととなった。しかし、トランス型はもっぱら差別の対象であり、1960年代にようやくトランス型もツール型並みの人権が得られたのである。
 よって、ツール型中心社会でいう「風変わりな人間」というものはこれでなくなったはずなのである。
 だが今でもトランス型への不当な扱いはなくなったわけではない。もとから人口がツール型に比べれば少ないので、もの珍しい目で見られたり、社会貢献度が低かったりするのだ。しかし、もしあまりに不当な扱いを受ければ、人権団体に訴えることができる。
 そんな中、人権団体に訴えることすらできない人々がいる。それが吸血鬼である。
 こう書くと、まるで吸血鬼を悪者扱いしていない、むしろ哀れに思っているように思えるが、事実そうなのである。
 彼らの存在は極めて薄く、冒頭でも述べたように架空の存在だと思われているのが事実だった。それゆえ、吸血鬼に関する伝説や迷信も同時に植え付けられているのである。
 そんな世の中にさいなまれ、長いこと人とかかわるのを避けて生きてきた青年がいた。彼は自分の身を厭いながらも、ある日、自分の身に起こっている真実を探ろうとし始める。これは、そういう物語である。

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