Yukiyanagiな日々

趣味で創作活動しています。野生動物、北方狩猟民大好き。創作活動の報告や、日々思うことを綴ります。

Phantom 第6章

「Phantom」ロゴ6



    第6章 男の正体

 絵理奈は残されても、淋しくはなかった。その気持ちは、今日はとても強かった。また、彼が武器を持った怪しい人物だとしても、悪い乱暴な人ではないと信じた。彼女からしてみれば、彼はあの武器を脅しとして持っているようにしか思えず、顔を隠しているのも、もっと何か別の理由があるような気がしてきた。



 その頃、覆面の男は、暗くて狭い夜道を歩いていた。右手に薄汚れた白い布切れを持ち、顔をかがめながら道を確かめるように歩を進めている。そして人気を感じたか、さっと壁に身を寄せた。建物の陰から様子を伺うと、目と鼻の先に、せっせと張り紙を貼っていく人物がいた。格好からしてどうやら役人のようである。
 男はすぐ近くに貼られていた張り紙に接近し、しばしじっと見つめると、素早く剥がした。その紙をビリビリに引き裂いてその場に捨てると、男は役人の後ろからそっと忍び寄り、例のごとく左の手首から鋭い刃物を出して、すぐ後ろまで迫った時に抱え込んで突き刺した。
 張り紙をしていた役人は声を上げることもなく倒れる。男はその体を狭い路地へと運び、貼られた紙は片っ端からはがし、残った紙と共に橋へ持って行って川へ投げ捨てた。



 翌朝絵理奈がベッドから起きると、フードの男がいつもの定位置でいつものように腕を組んで寝ていた。格好は昨夜の修道士のような格好のままだった。
 しかし、昨夜からだろうか、妙に今日は薄汚れているというか、傷だらけだった。黒地に白っぽい汚れや傷が無数にある。
「おはようございます」
 男に接近し、絵理奈は穏やかな声で挨拶した。彼は鈍く唸るような声を出してフードの下で目をこすった。
「あ? 起きたのか」
「はい」
「どうした?」
 少し疲れたような脱力した声だった。
「いえ、ただ、どうかしたのかなって」
 やや戸惑って男から目線を離した。
「んん?」
「なんか、すごく汚れてるし傷が多いし、何かあったのかと……」
「お前が気にすることじゃない」
 彼はあくまで話そうとしないようだ。しかしいつものようにうるさそうではなかった。
「そうですけど……、そんな状態じゃあ、気にするのは人としての当然の感覚ですよ」
「だが事実関係はないんだ。お前に話してどうにかなるものじゃない」
 彼は軽く顔を背けた。照れているのか、本当に知られたくないのか、それは絵理奈にはわからない。
「無理はしないでくださいね」
「あん?」
 再びこちらを見た。
「あの、私、あなたのこと、最初はたくさん疑ってたけど、今はそうでもないんです。あなたが誰かのために、無理に自分を傷つけるようなことをしてる気がして……。もしそうなら、悲しいなって」
「余計なお世話だ」
 彼は跳ね除けるように言い返してきた。
「それはお前の勝手な想像だ。お前が私を疑っていたのなら、むしろそのままのほうがよかった。無駄に親近感抱かれるのはごめんだ」
 せっかく近い存在になりかけたはずなのに、またそっけない無愛想な喋り方にもどってしまった。
 絵理奈はむっとすると同時に、男が、何が何でも自分のことを話したくないかのように思えた。
「あの、どうしてそんなに自分のこと隠すんですか? それに、なにもそこまで突き放すような態度でなくたっていいでしょう……?」
 最後のあたりで声が収縮してしまった。
「……忘れたのか? お前は私の捕虜なんだぞ。しかも、お前は『21世紀』とかいう妙なところから突然現れた。もとの場所に帰れたとしてもそこで何をするかはわからん。お前は私に対して正直に接しているつもりかもしれんが、私には信じきれない。だから話さないまでだ」
 絵理奈は呆れたように男から身を引いた。絵理奈からしてみれば、今まで親切にしてくれた人には親しくなりたいし、お礼をしたいのだ。彼女にとっては、もはや彼は「不審者」ではなかった。
 彼女が納得いかない様子に気づいたのか、男は絵理奈に向き直った。
「気が済まないようだな。なら私の正直なことを言おう。お前はな、実は私の『敵』側の属性だからだ」
「……え?」
 今の発言にピンと来なかった。
「わからないのか、本当なら私がお前のような輩とこんな親密に関わるってことは有り得ないんだぞ」
「……どうして?」
 わかるはずなのに聞いてしまった。
「だから『敵』と同じ属性だからじゃないか」
 いつもなら彼は何か言って顔を背けてしまうところだが、今は違った。フード越しに絵理奈をじっと見つめている。睨んでいるようにさえ感じられた。
「でも……ゆうべ……」
 この男がどういう存在かは知らないが、それにしても、夕べの彼のあの優しさは忘れられなかった。彼女の頬に触れた時の手の温かみ、「淋しかったのか」と言った穏やかな声、黒覆面の下から感じられた彼の慈悲の様子、それが嘘とは思えないのだ。
「私はまた出かける。昨日のように迷子になるんじゃないぞ」
 固まったままの絵理奈を残して、そそくさと男は牢屋を出た。



 午後の曇った昼下がり、(地図範囲内の)広場のベンチで絵理奈はずっと考えていた。
(「敵」って何? あの人の敵ってなんなんだろう? やっぱりあの武器で戦ってるのかな? そういえば初めてあった日に衛兵に追われてたけど、あれがまさか敵? うーん、そうなるとやっぱり犯罪者なのかなぁ? でも、あれだけ優しくしてもらってると悪い人な気がしないよ。どうなってるんだろう……)
 長いこと座り続けたのだろうか、だんだん尻が痛くなってきた。彼女は気分転換のためにも街中をぶらりと歩こうと思った。
「ねぇ、知ってる?」
背後で女性たちが話しているのが聞こえた。
「最近、討伐団を狙う人がいるらしいのよ」
――――「討伐団」?
 振り返ってみると、どこかの主婦と思われる女性たちが数人集まっていた。
「あぁ、聞いたわ。影も気配もないのに、討伐団のお偉いさんがたが次々と殺されてるんですってね。殺された人は皆、刃物で刺された跡があるか、矢が刺されてたりとかだって」
「まぁ、恐ろしい。あの方々がいなくなったら、私たち、……あの悪魔たちに支配されてしまうの……?」
 ある夫人の声が震え出した。
 ……「悪魔たち」?
 絵理奈は奇妙に思った。
「そうならないために、今衛兵さんたちが警備を強化してるらしいの。その犯人を見つけ出すためにも。最近、その犯人らしき人も特定されつつあって……」
 その時だった。
「逃すな! 奴は屋根の上を伝っている! 向こうへ先回りして追い込むぞ!」
 兵士たちが数人通りを走っていく。重装備した者も何人かいた。
「あれ……まさか……」
 嫌な予感がした。だが、気になってしまい、兵士の駆けて行ったところを追った。
 向こうから武器が交わると思われる金属音が響いてくる。建物の陰からこっそり覗くと、さっきの兵らが一人の敵相手に戦っていた。
 彼らの間から見えた緑色の服の裾――――彼だった!
 長い剣を片手に防御体制で構えている。一人の兵が武器を振り上げると、その隙をついて剣で兵の腹を突き刺した。「ぐぁ!」と兵が鈍い悲鳴をあげて倒れる。すかさずほかの兵も襲いかかるが、彼は見事なまでに攻撃を交わし、隙をついて攻撃する。絵理奈は言葉を失った。なにより一番不可解だったのが、手首から刃物を突き出し、敵の腹や胸に突き刺すというものだった。どうやって飛び出しているのかわからないし、腕にあんな凶器が潜んでいたことを知らなかったことが何より恐怖だった。
 だが、槍を持った兵士と戦っている時、横にいた別の兵士に武器の柄の先で脇腹を突かれ、男はバランスを崩して倒れた。その瞬間、残された兵士たちに取り押さえられ、彼は拘束された。
 一部始終を見ていた絵理奈は生きた心地がせず、恐怖におののいて身体が動かなかった。しかし、ひとりの兵士が視線を感じたのか、振り向くと彼女は本能的に身を翻した。
「そこにいるのは誰だ?」
 気づかれてしまった。
「…………」
 絵理奈は壁にピッタリと身を寄せて隠れていた。
「ずっと見てたんだろ、わかってるぞ! 姿を現せ!」
 彼女は隠れ続ける。足がすくんでしまっているのか、逃げればいいものを逃げれない。
「姿を現せ! ……どうしても現れないなら、こっちに連れてくるまでだがな」
 矛槍をもった兵士は、鎧をガシャガシャ鳴らしながら絵理奈のもとに迫ってきた。そして、彼女は腕を鷲掴みされ、男のもとに連れて来られた。男の目の前に座らされ、頭上から兵士はこう言った。
「貴様はこいつと面識があるのか? こいつの塩梅が気になって遠くから見てたんだろ?」
「…………」
 絵理奈は何とも言えなかった。
「黙りを決め込んでるな。おいお前、このファントムめ、この女を知ってるのか? 言え!」
 男はしばらく黙っていたが、俯いたままぼそりと言った。
「彼女を放せ」
「何だと?!」
「そいつは私とは関係ない。放してやれ」
 絵理奈を連れて来た兵士は、はじめは彼女をきつく押さえていたが、何を思ったか突然、ナイフを取り出して絵理奈の喉に突きつけた。絶体絶命だった。今目の前にいる男は、手を縛られて動けない。
「なら、此処でこの女が俺によって殺されても構わんというのだな。貴様のような非情なアサシン(暗殺者)ならば、目の前で人間の一人や二人死んでもなんてこたぁねぇだろう」
――――アサシン?!
 男はひょっとすると、先ほど女性たちが話していた「討伐団」やらを狙っている人物だというのだろうか。今まで自分に親切にしてくれたこの男が、本当に人殺しだったのかと思うと、自分が死ぬのも時間の問題だろうかと恐ろしくなった。
 男は兵士をフード越しに睨みつける。
「放せ。私は不要な殺生は好まない」
 とても低い声だった。威圧感さえ感じさせるほどだ。
「ふん。ならばやっぱり貴様はこいつと関わりがあるんだ。アサシンのお前の言うことなど信用できるか」
 すると絵理奈は殺されはせずとも、多くの兵士たちに囲まれ、男と同様拘束されてしまった。手を後ろで縄できつく縛られ、男と一緒に囚人用の馬車に放り込まれた。木の格子で周りを囲んだだけの、ボロくて汚い馬車だった。
 馬車に激しく揺られながら、二人は向き合って座っていた。彼女は無意識のうちに男をじっと見つめていた。彼は深く頭を垂らしている。
「……あの……」
 絵理奈は特に話すこともないのに、おずおずと声をかけてみた。
「……何故見ていた?」
 男が俯いたまま低く尋ねた。
「え?」
「何故私のところを見ていたんだ。それに、どうして逃げなかったんだ」
 彼は顔を上げ、彼女を上目遣いで見つめた。
「それは……」
 一言や二言で済む話ではない。騒々しいから覗いて見たら彼がいて、次々と兵士を倒す彼が恐ろしくて立ちすくんでしまって、彼に対して「どうして?」という気持ちが湧いて気になってしまって、放って逃げるのがどこか辛くて……。
 特定の感情や思いがあって見ていたのではなかったのだ。感情の移り変わりに身を委ねてしまい、結果としてこうなってしまった。けれど、男はそれ以上問い詰めはしなかった。しかし、
「こんなことになって、余計に『二十一世紀』に戻りにくくなったのかもしれんぞ」
 と言った。



 二人を乗せたオンボロ馬車はどこかの城に入り、二人は別々に降ろされた。絵理奈は抗おうにも抗えず、日本の二又のようなもので前後首を抑えられ、そのまま地下の(現役の)石牢に閉じ込められた。
「あとであのファントムも連れて来てやる。奴には調べにゃならんことがあるからな」
 兵士はそう投げかけて、プイと背を向けて牢獄を後にした。


 一方、男は誰もいない狭い地下室に連れて来られた。彼を囲む兵士の間に、比較的身分の高そうな人物が割って現れた。
「ほう、とうとう捕まったか! お前がファントムと呼ばれて恐れられた時代もこれで終わりか! なら、顔を見せろ!」
 男の被っていたフードが取られた。



 絵理奈は絶望の淵に立っていた。こんなリアルに投獄された状態で、一体どうやって未来に帰れるというのだろうか。もし、何処かに特定の出入り口があるとすれば、今自分は、戻るのはとても難しい状況にある。
そう考えていたとき、前方が騒がしくなってきた。数人の兵士たちが誰かを囲むようにこちらに近づいてくる。
「おい女!」
 柄の悪い声で怒鳴られた。
 兵士の一人が、鉄格子の前に立った。
「貴様、この男がこういう奴だったとということを知っていたのか?」
 そういうと、頭にぼろい麻布の袋を被せられた男が鉄格子の前に突き出された。手を後ろで縛られているのと、服装であのアサシンだとわかった。絵理奈に怒鳴りつけた兵士が袋を取ると、アサシンの顔が露わになった。

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 頬や耳が毛深く、耳は尖ってオオカミのようだった。目はつり目で堀が深く鷲鼻、猛禽のような顔つきであり、上目遣いの瞳は翡翠のような色である。
つまり、トランス型だったのだ!
「……どういうこと?」
 16世紀の段階では、まだトランス型とツール型はヨーロッパにおいて文化圏が違うはずである。これは一体どういうことなのか彼女はさっぱりだった。
 この彼女の反応をアサシンへの恐れだと勘違いしたのか、兵士たちがあざ笑った。
「なんだ? 貴様は自分の同僚がこんな醜い獣人だと知らなかったのか? ショックで声も出ないか!」
 周囲が下品な笑いに包まれる中、アサシンは歯をむきだし、兵士たちをすごい形相で睨みつけた。それはまるで威嚇する獰猛なオオカミのよう。なるほどトランス型なだけに、犬歯が長く、鋭かった。こんな様子を見ると、当時のツール型がトランス型を同じ人類だとみなせないのもわかる気がする。それ程までに、この男の顔つきは猛獣的であったのだ。
 正体を暴かれたこの狼男は、先ほどとは打って変わって牙を剥いて周囲に噛み付こうとする。ひょっとすると、彼が今さっきまで袋を被せられていたのは、兵士たちがこの男に噛まれないようにするためもあったのかもしれない。
 鉄格子の扉が開き、男は牢獄内に押し込まれた。強く押されたため、彼は無残にも床に叩きつけられる。
「そこで二人仲睦まじく過ごすんだな、 はははは!」
 乱暴に鉄格子の扉が閉まって、地下牢内は二人だけになった。
 アサシンは顔を上げて鉄格子の外に向かってオオカミのような唸り声をあげ、それから自力で起き上がり、あぐらをかいた。彼は不快な表情を浮かべて無言で自分の前方を見つめた。それから、表情を変えぬまま
「さぞ気分悪いだろう。こんな猛獣みたいな奴と同類扱いされてな!」
と、やけくそになったみたいに吐き捨てた。
 そんな彼に、絵理奈は様子を伺うように尋ねる。
「……何があったんですか?」
「あぁ?」
 彼は噛み付くように牙を見せた状態で返答した。尖った毛深い耳も倒れて後ろに反っている。どうやら、正体がばれてしまったことがよっぽど嫌だったようだ。
「どうして、ツール……『真人間』の社会に、『獣人』のあなたが関わってるんですか? それも、アサシンとして……」
 彼女は最後のあたりで、自分はとんでもないことを聞いてしまったと青ざめた。
「そんなこと、お前が知ったことか!」
 アサシンは冷たく跳ね返した。
「お前が生きてた『21世紀』だって同じだろう。『獣人』と『真人間』は、お互い似ているのに全く違う性質の人類同士で、共存なんかあり得ないんだ! お前が知ったところでどうなるってもんじゃないだろう!」
「いいえ」
 絵理奈は急に冷静になった。
「あぁ?」
「21世紀では『獣人』も『真人間』も平等に同じ環境で暮らしています。……あ、そういえば!」
絵理奈は、先日友人が、20世紀以前のトランス型がツール型に抗うことはできなかったのだろうかと疑問を投げかけたことを思い出した。
「嘘だ! 『獣人』と『真人間』は、もう何百年、何千年も前から対立しているんだ! おまけに『真人間』どもは私たちを『悪魔の手先』とみなし、集落を襲っては虐殺するんだ! そんな連中と、どうして我々が共に生きていくことが出来る! たった500年の間に、何が起こせるっていうんだ! 見え透いた嘘をつくな!」
 彼の表情は、怒りと悲しみに満ちていた。「虐殺する」という言葉が出てきたが、それを聞いたのは初めてだった。支配され、統治されたとは聞いていたが、そんなことがあったとは習っていない。彼女は強い衝撃を受けた。
「そんな……」
「何を言っている。これが世の中というものじゃないか。力を持つものは世界を自分の思うように作り変えようとする。その過程において、強者の気に食わない弱者は淘汰される運命にあるんだ。だが私はそれが赦せず、こういう形で刃向かった。たとえ非合法なやり方でも、そうしなければ私たちの未来はないんだ! いいじゃないかお前は。そうやって傍観者として私を恐れ、『『獣人』は恐ろしい』と言っていれば。そう言ってても勝手に世の中はお前ら『真人間』どものものになるんだからな!」
 嫌味を含んだ毒舌を吐き捨て、アサシンはそっぽを向いた。
「……何もそんなこと、言ってませんよ」
 絵理奈は低く小さな声で言った。
「なに?」
 オオカミ系のアサシンは振り向いた。
「歴史は500年の間で変わりました。人々の意識が時代とともに変わり、様々な真実がわかって、争うのは間違っているとある日皆気づいたのです。16世紀は、まだその途中です。あなたが対抗しようとする意識も、進んだ時代の一つかもしれないですよ」
 すると、彼の表情に変化が起こった。
「…………。お前は、変わったことを言うな。そんなことが『真人間』の口から出ることのほうが、よっぽど信じ難い事実かもしれん」
 彼の口調が穏やかになった。だが、まだ疑いの気配がある。彼は絵理奈に向き合った。
「では聞く。お前は、この私の姿を見ても、恐ろしくないというのか?」
「『獣人』としてのあなたなら」
 絵理奈は彼をまっすぐ見つめながら毅然として答えた。
「この最も恐ろしいとされる『狼族』の一人であってもか? 私のこの姿は、狼的なそれなんだぞ」
「別に平気です。『真人間』が考える悪魔の姿のように、背中に蝙蝠の羽が生えてたって怖くないですよ」
 アサシンは、信じられないような表情を浮かべた。彼女に確かめるように聞いたのにもかかわらずということは、よっぽどあり得ない環境で生きてきたんだということが浮き彫りになった。
「私はあなたの味方です。だから教えてください! 今此処で起こっていることを!」
「味方」と聞いて、彼は驚いたようだった。しかし、
「……知ってどうする?」
 怪訝そうな目で彼女を見つめた。
「未来に戻ったとき、忘れてはならない過去として、私が伝えていきます! 教えてください!」
 彼は鼻で笑った。
「こんな状態で、『戻ったとき』なんて言えるのか? まあいい。お前が謙虚に『獣人』の話を聞く気があるなら話してやってもいいだろう。お前たち『真人間』どもの醜さを教えてやる」






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