Yukiyanagiな日々

趣味で創作活動しています。野生動物、北方狩猟民大好き。創作活動の報告や、日々思うことを綴ります。

Phantom 第7章(後編)

「Phantom」ロゴ7



    第7章 かつての村―戦いの原点―(後編)

 フェデリコは集落の者とどんどん親しくなっていった。気難しくいつまでも拒否していたのは私ぐらいになっていたのかもしれないほどだ。不思議なもので、男性より女性の方が「真人間」の受け入れが早かった。子どもたちも彼に対しては警戒していなかったし、この調子で他の「真人間」にも近づいていったらどうしようかと私はひやひやしていた。
 ある日、私が馬の世話をしていたとき遠くから「真人間の襲撃だ!」という見張りの声が聞こえてきた。
ハッとした私はそばに置いておいた弓矢を持って、世話をしていた馬にまたがった。逃げ惑う人たちを背に彼は「真人間」が侵入してくる方向へ馬を走らせる。突進してくる歩兵たちに向かって矢を放ちながら進むが、飛んできた矢に右肩を刺され、落馬してしまった。痛みでうずくまる私のもとに、いきなり何本もの槍が突き付けられた。兵士に囲まれた中、将校らしき男が間を割って現れ、見くびったような表情で私を見下ろしていた。
「此処に一人の『真人間』が捕えられているようだな。どこだ?」
「な……なんだと?」
「とぼけるな。こっちは何でも知ってるんだぞ。奇跡的に生きながらえた弓兵の男がこの村にいるそうじゃないか。どこにいる?」
「知るか……そんなこと……」
 将校は顔をさっと上げて、私を取り囲む兵たちに視線を移した。
「ふん、こんな状況下でも口を割らないとはな。まあいい。狼人間どもはまだたくさんいる。ほかを当たればいい。殺せ」
「待て!」
 私の背後から声が聞こえた。
「誰だ?」
「私です。あなたが探している『真人間』は」
 その声はフェデリコだった。
「私はこの者たちに命を救われたのです。だから此処で健康に暮らしているんです。この男の妹が私を助けてくれた最初の者です。どうか殺さないでください」
 あいつのことが信じられるわけではない。でもこの追い詰められた状況で、私の望みは彼がこの連中をどうにかしてくれることだった。だが、
「ほう、狼もどきが『真人間』を助けるとな。ははは! 実に愉快だ! 妙なものでも喰わされたか! 狼族が我々『真人間』を救うと思うのか。ならば、お前をおかしくさせたこの狼男を先に始末すべきだな」
私はもうだめだとギュッと目をつぶる。そのとき「うっ」と短い悲鳴とともに何かが地面に倒れる音がした。目を開けると、先ほどの将校が矢を刺されて倒れている。振り向くとフェデリコが弓を持って矢を放った姿勢になっていた。
「貴様ぁ! 味方に向かってなんてことを! この裏切り者! やっちまえ!」
罵倒した兵たちが刃向ってくると、フェデリコの背後から矢が飛んできて兵らは倒れた。
「オレにとっては、もう狼族の人たちが味方なんだよ」
 彼がつぶやく声が聞こえた。
「フェデリコさん! だいじょうぶだった?」
 女が彼に声をかける。
「ああ、平気だ。ありがとう」
「あ! ティーラ!」
 私の名を呼ぶ者がいる。数人の男女が私のもとに駆け寄ってきた。
「ティーラ! ティーラ! しっかりしろ!」
「ティーラさん!」
「……どうして……?」
 私は彼らの顔を見た。皆村の仲間だ。
「フェデリコがお前の様子見ておれたちに『行くぞ』って言ったんだ」
「…………」
――――なんだと?
「大丈夫? 立てる?」
 無言で立ち上がり、私は肩に刺さった矢を引き抜き、思い切りバキッと折った。
「ど、どうしたんだ?」
 私には激しい憤りが募っていたのだ。
「なあ、フェデリコ」
 向こうを向いたまま声をかけた。
「ん?」
 あいつはとぼけたような声だった。
「お前、これって自作自演だったりするんじゃないのか?」
「……なんで?」
 私の堪忍袋の緒は切れ、やつにズカズカと近づき、折った矢をフェデリコの目の前に差し出して睨みつけてやった。
「さっきお前が倒した将校が言ってたぞ。私たちのことは何でも知ってると。お前が此処にいることを連中は知ってるんだ。おかしいと思わないか?」
「……確かにな」
 彼はまるで何も知らないかのように少し視線を落とす。
「『確かに』じゃないだろ!」
 フェデリコの胸ぐらをつかんだ。
「連中は襲撃するまでこの村にはいないのになんでお前が生きてるって知ってるんだ! お前がこっそり連中に言いに行ったとしか考えられないだろう! そこはどうなってるんだ、おい!」
 牙を剥いて威嚇した。胸ぐらを掴んだまま彼の体を持ち上げた。
「ティーラさん! やめてあげて!」
「知らないよ、オレは知らない! ホントだ! オレだって吃驚してるんだよ!」
 彼は恐れおののいている。だがそれで私が納得できるだろうか。
「やめろよティーラ! 知らないって言ってるじゃないか!」
――――なぜお前らまでおれを止める?
 私は一瞬彼らに目を向けるが、すぐにまた視線をフェデリコに戻した。口を真一文字にしたままじっと彼を睨んでいたが、そのうちゆっくりと手を離した。だがそれは赦したことを意味しているわけじゃない。
「ティーラ、お前は疑り深すぎるんだ。まあ、そういうところが護衛係に適してたのかもしれないけどな」
 仲間はなだめようとしているが、そんなの私に通用するわけがないんだ。私はその場にはいられなくなって、無言で立ち去った。
「ティーラさん! どこへ行くのよ」
「…………」
 私には不思議だった。何故彼らはあの「真人間」の言うことを信用できるのか。これまで同じように生き、運命もともにしてきたというのに。私はわからなかった。
 リラには今日のことを話した。そして、くれぐれもあの男には油断するなと言っておいた。彼女は編み物をしていた手を止め、何も言わなかった。
 ところがそれから数日後、フェデリコは急に村から姿を消してしまった。村の仲間は心配したが、私はやっぱりなと思った。私みたいな疑り深いのがいて居心地が悪くなったか、あるいは自分の正体みたいのがばれてビビったか、どっちにしろここにはいられないと思ったのだろう。奴はもしかしたら「真人間」の味方に狼族のことを話に行ったのかもしれない。一時的に味方を裏切ってさも狼族の味方であるかのように見せかけて。だから私は追いかけようかともと思ったが、その間に村を守れなかったらまずいと思い、この際村の守備に徹しようと決意した。




「うん……でもやっぱりちょっとかわいそうな気もするけど……」
 絵理奈はティーラの立場の話から聞いてもフェデリコを不憫に思った。
「お前は『真人間』だからだ。それに、お前の性格はリラに似てるしな」
「え?」
 そんなことを言われるのは意外だった。確かに、彼の事情を本人から、それも牢獄でお互い腕を縛られた状態で懇切丁寧に聞くのも意外ではあるのだが。
「初めて会った時から似てると思った。『真人間』のくせに、見た目もしぐさも性格も妹に似ていて、『なんだこいつ』って思ったよ。特に、あのとき、私が怪我した足で立ち上がろうとしたとき『無理しないで』って言っただろう。あれはよくリラが私に言った言葉だ。あまりにそっくりで、一瞬妹が蘇ったかと思った程だ。お前を連れ回したのは、確かにお前が周囲から浮く奇妙で疑わしい存在だというのもあったが、半分は妹に似すぎて放っておけなかった気持ちなんだ……」
 彼の「蘇った」という言葉に、彼女は何か引っかかるものがあった。
「…………。そうなんですか……。――――ということは、……妹さんは……もう……?」
「あぁ。殺された。たった16歳で」
 彼は突然目線をそらし、険しい表情になった。
「…………そんな」
「彼女が殺された日のことは鮮明に覚えてる。そしてこの日が、私が『真人間』に復讐を誓った日でもあるんだ」




 その日私は村の境界線付近の木の上で敵を見張っていた。しかし敵の気配がないまま村のほうから炎の気配を感じた。妙に感じた私は木から降りて村のほうへ馬を走らせた。するといつの間にか敵が村を襲っていた。村のあちこちの建物が火事になり、至るところに矢が刺さっていた。
 私は嫌な予感がした。馬から降り、自分の家へ向かった。
 家は炎に包まれ、私の目の前で無残に崩壊した。家族の姿は見えない。
「お兄さん! 助けて!」
 妹の痛烈な叫び声が聞こえた。私は声のした方へ駆けこんだ。けれど、――――遅かった。
「……!!」
 少し離れたところでリラがうつ伏せに倒れている。背中には矢が二本も刺さり、全身傷だらけだった。そのすぐ前に立つ弓兵と歩兵がにやりとしながら私を見やった。私は血眼で彼らに襲いかかった。弓と剣を使い、返り血が跳ねるのも構わず倒した。
「リラ! リラ! しっかりしろ! リラ!」
 彼女は目を覚まさない。それどころか、目を開けたまま倒れていた。私は言葉を失った。
 ……そのとき、突然雨が降り出した。雨は周りの炎を少しずつ消していく。そして、冷たい雨は妹の体もどんどん冷やしていった。ほのかに温かかった体が、だんだん冷たくなっていった。
 最初は涙も出なかった。けれど、この雨が、私の気持ちに拍車をかけた。
「ううっ…………、何故だ……なぜ……なぜリラまで……殺されてしまったんだ!」




「その後、ほかの家族も皆死んだことがわかった。私は自分が護衛係であるという責務であるにもかかわらず家族を守れなかった自らへの悔しさと、家族の命を平気で奪った『真人間』への憎しみでいっぱいになった。そのあと私は意識を失って、気づくと隣の村の家で寝かされていたんだ」
「…………すべては、そこから来てたんですね。ごめんなさい、私何も知らなくて軽はずみなことばかり……」
絵理奈はうつむいて涙をこぼした。その様子を見たのか、ティーラの声色が変わった。
「いいんだ。お前は知らなくて当然なんだ。むしろ、今まで知られたくなかった」
そのとき、彼は妙に前かがみになって首から下げていたネックレスを見せた。木製の狼の顔の彫刻に、翡翠のような石が、彫刻を取り囲んでいる。
「これ、リラの形見なんだ。狼族のお守りでもあり、あらゆる厄災から守ってくれるとされている。彼女はこれを死ぬまでずっと身に着けていた。けれど、彼女が死んだときにはそんなこと考えられなくて、気を失って目覚めた時、前の村にいた時から親しかった人が渡してくれたんだ。妹を埋葬するとき、気づいたって。この首飾りには、その人の思いも詰まってる」
 そう言って彼はもとの姿勢に戻った。
「……続けて大丈夫か?」
「あたしはたぶん大丈夫です」
 絵理奈は顔を涙で濡らしたままだったが、落ち着いて言った。
「その後のティーラさんのことも気になりますし、続けて話してください」




 あの時を通じて、狼族の何割が姿を消した。家族がいた村に残された仲間は皆、私が保護された北集落に引っ越した。そこでしばらく療養生活をしていたが、自分の体が思うように動かず、私は生きる力を失いかけた。
今話した、首飾りを渡してくれた人はユリィという名の一つ年上の女性だ。
 あの人は私や妹のことをずっと前から知っており、妹の看病にも携わってくれた。
 リラが死んだことにあの人も涙を流していた。だが、欝になりかけていた私をずっと慰め励ましてくれた。
 けれど、それでも私の苦痛は癒えきれなかった。妹をはじめ、家族や仲間を殺した連中をそのままにはしておけなかったのだ。
 しかし、聞いた話では、「真人間」に復讐しようとして成功した者は一人もいないという。なぜなら「真人間」は私たちが想像を絶するほど進んだ武器を持っていて、生半可な武術では太刀打ちできないかららしい。
「獣人」には部族を問わず「派遣隊」というグループがある。これは「獣人」が「真人間」に成りすまして「真人間」を調査する団体だ。新しい発見があり次第、部族の集落に戻って情報を伝達する。今の話は、その「派遣隊」から聞いた話だ。
「なら、どうすればいいんだ? おれにこれまでと同じ生活をしろと?」
 暖炉で同じ部族の「派遣隊」員の青年と話しているときのことだ。
「……ひとつだけ策があるが、あまり薦めないよ」
 彼は躊躇するように重々しく言った。
「なんでもいい。教えてくれ」
「…………。暗殺だ。これまで僕らは愚直すぎたんだ。剣と弓、槍を持って『真人間』のアジトに押し掛けるやり方だった。それじゃあ、僕らはやっぱり野蛮だと連中に思わせるだけだし勝てっこないんだ。『真人間』は憎い敵を倒すためなら手段を択ばないっていうそういう輩なんだよ。そんな連中相手に仕返ししたいなら、奴らと同レベルかそれ以上のことをするしかない。けれどティーラ、敵を付け狙ってひそかに殺害するとか、できるか?」
 どこか私を確かめるような目で見つめている。
「出来るかってどういうことだ? それは実力面かそれとも精神面か?」
「……両方だよ。君はどっちでも大丈夫だということなのか?」
「そうするしか方法がないなら、それしかないだろ。仇を討たずにはいられない。それに、このまま放っておいてら仲間がどんどん死んでいく。誰がやったのか知られないようにひそかに倒すのがいちばんいいだろう。暗殺者(アサシン)となって戦うつもりだ」
 もちろん、これは今までと違って直接敵を殺害することだし、長期に渡って正体を知られないように敵陣の中で過ごさなければならないことだ。けれどそんなことぐらい簡単に覚悟できてしまうほど、私の憎しみは強かったのだ。

 同盟を結んでいる鷹族からは、鉱山の位置を教えてもらう他により進んだ鉄鋼の技術も共有していた。私の決意を「獣人」一同の大作戦だと捉えた彼らは、私のために優れた武器を用意してくれた。遠くからでも攻撃できるクロスボウと呼ばれる飛び道具、やや離れた敵に投げつけるナイフ、そして、敵に至近距離から致命的な打撃を与える隠し武器を与えてくれた。それがこの隠し刃だ。
「この篭手の先に取り付けられた紐を結んだ指輪を小指に通して、……そう。そしたら、その指を手首ごと勢いよく動かしてごらん」
 そのとたん、篭手に取り付けられていた刃物が勢いよく飛び出した。
「うわっ! すごいな、こいつは」
 私は驚きもし、怖気付きもした。
「それなら武器の出し入れが簡単だし、武器を構えていることを敵も周囲も気づかないだろう。暗殺にはもってこいだ」
 武器を作った中年の鷹族の男性が言った。彼は部族内で最も熟練した鉄鋼職人の一人だ。
「ただ扱いにはくれぐれも注意しろよ。一歩間違うと自分の体を傷つけることになり兼ねんからな」
「あぁ、そうだな」
 だから私はこの武器の扱いに慣れるまでは何度も練習した。それは他の武器の練習より多かったかもしれない。
 狼族から渡してくれた武器もある。通常よりずっと短く先の丸くなった棍棒と、剣だ。
 棍棒は、無駄な殺害を防ぐためのものだった。対象を取り囲む邪魔な障害を取り払うために、何も片っ端から殺していく必要などないと、手渡した人は言った。
「要はそこに居られると邪魔なだけなんだろう。だったら気絶させるだけでいいじゃないか」
 彼はそう言った。

 私がアサシンになると聞いて、いい顔をしない者も多かった。私が「真人間」並みに染まってしまうと思い、私に失望してしまう人さえいた。私を支えてくれたユリィも、その一人だった。
 ある日私があの人の家を訪ねたとき、出迎えたのはあの人の弟だった。
「ユリィは……?」
「姉さん? 姉さんなら向こうの台所にいるけど」
 彼が指さした方向へ歩むと、洗いかけの野菜を目の前に手を止めているユリィの姿があった。洗い桶の前に私を背にしてしゃがみ、うつむいていた。
「……ユリィ、どうして、おれが来ても顔出してくれないんだ……?」
 そう言いつつも、あの人の気持ちはなんとなくわかっていた。だから、私もあの人と同じようにしゃがんで、あの人の後ろにいた。
「…………。怖いのよ」
 しばらく黙っていて、ようやく口を開いてくれた。
「あなたの気持ちは、よくわかるわ。でもね、正直怖いの。あなたが敵を獲物を狩るような感覚になってしまったりでもしたらって……」
「でもユリィ、わかってるだろ。これしか手段がないんだ。どうして前のようなやり方には何も言わなかったんだ!」
 私の言葉に力がこもった。
「だって、あそこにあなたは加わってなかったでしょう? もしあなたがあの時も介入してたら、あなたにいい顔しなかったわ。同じよ。要するに、『守る』じゃなくて、『攻める』側に立たれるのが嫌なのよ。多かれ少なかれ『人を殺した』という事実が刻まれてしまうのだから。『守る』側なら、相手が退散すればそれで済むのよ。そこが大きな違いよ」
「だから……?」
「あなたにはそんな人になってほしくなかった。あなたには恐ろしい過去なんてつくってほしくない! なのに、あなたはアサシンになって、さらに陰湿に敵を殺すのよ! だから辛いわ!」
 ユリィは前掛けの裾で顔を覆った。
「陰湿だ」と言われて、私もショックだった。あの人に言わせれば、「真人間」も本当は私たちと同じ人間なのだ。でも、同じ人間なら、なぜ私たちはこうまで理不尽な迫害に遭わねばならないのだろう。私はあくまでそこにこだわっていた。だからあの人が私に涙しても、私の決意は揺るがない、いや、揺るがせなかった。
けれど、狼族をまとめる頂点の巫女は認めてくれた。
「狼族を守るため、未来を託すためには、仕方がないと思います。けれどティーラ、ひとつだけあなたには言っておかねばなりません。彼女の言うように、直接人を殺すのです。殺すことに精神的に慣れてしまって、どんな方法でも平気で敵を殺せてしまうような、あの『真人間』のような人にはならないでください。あくまで必要な時だけ、なるべく相手に苦痛を伴わせないような、最善の手段を選んでください。そしてどんな時でも、あなたは狼族の一員であること、その誇りを胸にしていてください」
ひざまずく私の両肩に手を乗せ、優しく語りかけた。だが、その表情はやはりどこか悲しげだった。

 剣を渡されたのは、旅立つ日の夜だった。鷹族や他の部族の者も集ったかつてないほどの大規模な集会となり、儀式となった。あの時あの人が来ていたのかどうかわからないが、とにかく大規模だった。儀式のための衣装をまとった巫女は、両手に抱えていた剣を、今現在のような格好の私の前に差し出した。剣の柄には部族で最も価値があるとされる宝石が埋め込まれており、鞘には伝統的な模様が描かれていた。さらに巫女は剣を抜き、柄の近くに彫られた狼族の古語の文字を見せた。そこには「冬は必ず春となる」「狼族の誇りを持て」と書かれていた。
「これは狼族に古くから伝わる宝剣です。部族や他の『獣人』たちも守るために立ち上がった者だけが手にすることの出来る剣です。あなたは、今、これを受け取るだけの使命を抱えているとともに、その責任も抱えていることを、胸に刻んでおいてください」
 私は厳かに頭を下げ、無言で剣を受け取った。それは、軽はずみな発言を慎むためだった。今私がここで言った言葉が、単なる礼儀やその場だけの言葉になってしまっては、あまりにも不謹慎だと思ったためだ。
「ではティーラ・ウェルズ。行きなさい。御武運を」
 巫女の声には力がこもっていた。
 私は初めてフードを被り、振り返ることもなく皆の前を去った。

「真人間」の集落では例の「派遣隊」員が資金調達や物資をそろえてくれた。さすがに私一人で全部やるのは不可能だし、「派遣隊」員と会うことで新たな情報を得ることもできる。

これが、私が今日に至るまでのすべてだ。






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